エリオット波動の概要

エリオット波動とは

エリオット波動とは、株式などの相場を分析するための技法(テクニカル分析)の1つで、人間の群集心理に基づく景気の自然な上下動をいくつかのパターンに分類し、そのパターンに基づいて相場の動向を把握しようというものです。

「エリオット波動」という名称は開発者であるラルフ・ネルソン・エリオットという人の名前に由来しています。 エリオット波動は1935年に "Financial World" 誌などを介して世間的に知られるようになりました。

エリオット波動が提唱する各種のパターンが実際に存在するとすれば、現在の動きがどのパターンのものなのかを判断できた時点で、相場の今後の動きを予測できるというわけです。

エリオット波動の考え方は珍奇なものではありません。 ダウ平均株価で有名なダウ・ジョーンズ社の創設者であるチャールズ・H・ダウの相場術に通じるものがあり、上げ相場が一般的には3度の上昇波と2度の下落波(戻し)で構成されているというダウ理論の基本的な認識は、エリオット波動にも共通しています。

ダウ理論とエリオット波動理論に共通する波の性質認識

さらにダウ理論では、上げ相場の第一波(上図の@)が(上図には描かれていませんが)それまでの下げ相場に対する反動であるとし、第3波(B)がファンダメンタルズ(経済的なデータ)の裏付けを伴う本筋の上昇、第5波(D)は心理的な要因(相場の過熱)による上昇であるとしますが、この基本的な波の性質の認識についてもエリオット波動と共通しています。

エリオット波動とダウ理論の違い

エリオット波動はダウ理論でおぼろげに認識されていた「波動」という概念を明確化・細分化して、13種類のパターンに分類しました。 1つのパターンの次に別のパターンが、そしてその次にまた別のパターン続くことで相場が紡ぎ出されていくという概念です。

さらに、それぞれのパターンが成立するための条件を特定し、それによってパターン認識に基づく相場の予測を可能にしました。

エリオット波動の使い方

エリオット波動は、波のルールに基づいて波のパターンを判定し、そのパターンから今後の値動きを予想するという使い方をします。

したがって、パターンの判定を早期に行えるほど利益をあげるチャンスが増えるのですが、パターンの完成度とパターン判定の難易度は反比例の関係にあるので、早期に判定を行おうとするほど判定を間違うリスクが増加します。

例えば、パターンの完成度が20%の時点でパターンを判定できれば、パターンの残り80%の値動きに関しては、相場が実現する前に(完全ではありませんが)どのように推移するのかが予測できるので、その80%が現実化している期間中には売り買いの判断を間違えることなく、美味しい値幅を頂けるということになります。

しかし実際には、そのようなことは不可能です。 パターンの20%が完成した時点では、そのパターンがどのパターンであるのかという可能性には何通りもあるからです。

したがって実際には、次のような使い方になるでしょう:

  • パターンが50%以上完成した時点で数通りの選択肢に絞り込み、その中から比較的低リスク・高リターンのものを選ぶ。 そしてパターンの展開に応じて判断を動的に切り替え、臨機応変にポジションを変えてゆく。
  • パターンが80%ほども完成した後に、僅かなしかしながら確実な利幅を狙う。

1つ大きいレベル(次ページで説明)でパターンが完成に近づいていてパターンが明確となっている場合には、現在の(1つ大きいレベルのパターンから見て1つ小さいレベルの)パターンが始まる前から、ある程度値動きの方向や幅を絞り込むことも可能です。 その場合は、小さな含み損益を無視する長期的なトレードとなります。

他のテクニカル分析との違い

移動平均線や RSI、MACD、ストキャスティクスなどのテクニカル分析は、相場の予想をしてくれるツールというわけではありません。 相場の上げ下げのリズムによって偶然に上手く機能する時期があるというだけの話です。

例えば、移動平均線では、3日移動平均線で利益をあげられる時期もあれば、8日の移動平均線で利益をあげられる時期もあります。 RSI や MACD にしても、ツールごとに設定する日数が固定的に決まっていないというのは、逆に言えばどの時期にも有効な設定日数が無いということです。

したがって、これらのテクニカル分析は相場観あるいは相場勘を養うためのものでしかありません。 つまり、移動平均線などは相場の判断をするためのツールではなくて、相場の判断を自分で出来るようになるための練習道具に過ぎないのです。

さらに、その練習の目的である「相場観」や「相場勘」にしても非常に感覚的なものなので、他人に教わることも教えることも出来ませんし、努力を続けていれば成果が得られるという保証すらありません。

これに対して、エリオット波動理論は相場の判断をするためのツールです。 ノウハウを(限界はありますが)言葉で伝えることができ、客観的な基準のある技術です。

エリオット波動も使いこなすまでには努力が要求されますが、移動平均線などのテクニカル分析を練習道具として闇雲に努力するよりは報われる可能性が高いでしょう。

エリオット波動の利用に向く相場

エリオット波動は、株式相場全体の動向を把握するのには向いていますが、個別銘柄の分析には向いていません。 したがって、TOPIXや日経平均など、株式相場の地合いを映しだす商品の分析に用いると良いでしょう。

エリオット波動が個別銘柄の分析に向かないのは、@個別銘柄は取引者数が少ない、A当該企業の内的要因に株価が大きな影響を受けるという理由によります。 ただし、個別銘柄であっても出来高が非常に多い一部大企業の株であれば、エリオット波動を利用する余地もあるでしょう。

エリオット波動は商品相場にも利用できますが、これも取引高が多い商品に限ります。 株式相場と違って数年単位の大きな期間で見て持合い相場になる(市場に構造的な変化が生じた場合は、この限りではありません)とか、第5波が拡張波になることが多いなどの特徴があります。

エリオット波動は外為(FX)相場にも用いることができます。

エリオット波動をデイトレに使えるか?

エリオット波動は日中足にも現れるので、理論上ではデイトレにもエリオット波動を使うことは出来ます。 ただし、デイトレにエリオット波動を使う場合には次のような難点があります:
  • 波の構造が明確ではない。 日中足は最小規模の波なので、それよりさらに小さい規模の波を見ることができません。 したがって、日中足をトレーディングの対象とする場合、日中足が1つ下のレベルのどのような波で構成されているのかがわかりません。

    例えば、3つの波があって、それぞれの波の1つ下の規模の波まで確認することができれば、この3つの波が5‐3‐5という構造なのか、それとも3‐3‐5という構造なのかがわかり、現在の波動パターンを探る上で重要な手がかりとなります。

    日中足は、それ自体が最小規模の波なので、それより下の波の構造がわからないのです。

  • 出来高を判断材料と出来ない。 エリオット波動では出来高も判断材料となります。 例えば、インパルスの第3波で出来高が最高となることが多いなどです。 ところが日中足では、ノイズ(取引時間帯や何らかのイベントなどの出来高への影響)が波と出来高との関係に与える影響が相対的に大きいために、波を判断する材料として出来高を用いることはほぼ不可能です。
  • 判断に速度が要求される。 デイトレは取引のテンポが速いですから、速やかに波のパターンを判断することが必要となります。 しかしながら、次々と展開される相場のパターンを片っ端から解釈してゆくというのは至難の業です。

    自分が予期していたのと異なるパターン展開となったときには、また最初から相場の解釈を新たに始める必要があります。 そして、その間にもその日の相場は進行してゆきます。 既にポジションを持っている場合には、そのポジションをどうするかの判断もしなくてはなりません。

    エリオット波動とデイトレの両方に熟練している人で無い限り、デイトレにエリオット波動を用いようとしても良い結果にはならないでしょう。

長期投資に関しては、どれだけ長期であっても問題なくエリオット波動を使うことができます。 むしろ、長期であればあるほどイベントが波動に及ぼすノイズの影響が小さくなるため、エリオット波動の本来の持ち味が発揮されるでしょう。